【おやすみプンプン】感想 - 『切なさと光と、忘却と。』個人的解釈と振り返り【ネタバレ】
最高のハッピーエンドは、彼にとって最悪のバッドエンド
おやすみプンプンは、最終回のみをピックアップすれば大団円で最高のハッピーエンドだ。しかし、この終わり方は唯一プンプンにとってのみ、最悪のバッドエンドなのだ。常人にとっての天国が彼にとっては地獄なのだ。
どこまでも純粋でまっすぐだった少年が、常人とは対極的な価値観にまで変貌していくという悲しい変化を描いた物語。それでも彼は最後には自分を捨てて、忘れて慣れて、前へ前へと進んでいく。そんな彼の成長はたくましいけれど、切なくて寂しい。
作者である浅野いにおにが考える大人になることは、多分こういうことなのだろう。そこには、どこか浅野が世界に対して諦めや呆れを感じていることも少なからず感じさせられる。
確かに悲しい終わり方だったかもしれない。それでも、この作品にとって「正しい」終わり方だと思う。だから、この作品は収まるべくして、この形に収まったのだと思った。
結局ぷんぷんの願いは、ほとんど叶わなかったんだ。
プンプンの願いは、一貫して死ぬことで、愛子ちゃんに殺されることで、誰の記憶からも消えてしまうことだった。この世界に「おやすみ」をして、世界からも「おやすみ」って忘れられること。
でも、結局彼は死ぬことができなかったし、彼のことを思う人たちに囲まれて生きていくことになる。
これって普通の人からしたら幸せなことなんだけど、彼の立場で考えると、とーっても長い地獄にも感じられるんだな。絶望のない地獄。「生かされている」という生き方。静かに自分の願いや意志が消えていくような、静かな地獄。
愛子ちゃんの呪い
愛子ちゃんに対するプンプンの思いは初恋の瞬間からどんどん大きくなって、こじらせていって、正に呪いだった。彼女のためなら自分の人生すらも壊しても良いと思えるほどの呪いだった。その呪いは永遠かと思われた。
だけど、結果的に彼は人並みの幸せに慣れて埋もれていき、愛子ちゃんのことも忘れつつある。哀しいよな。だって、たったの5年くらいしか経っていないのにな。
あなたがずっと
私を忘れませんように『おやすみプンプン』13巻より - ISBN:409151555X
そう思うと、愛子ちゃんって浮かばれないよね。不憫な感じがするんだ。振り返ってみると、実はプンプンと愛子ちゃんが共に過ごした時間ってすごく少ないんだ。日数に換算しても数えれるほどだと思う。多分マンガで描写されているシーンが全てなんじゃないかな。幸さんとかとはさらっと1年ずっと一緒に過ごしたりしていたのにね。そう思うと愛子ちゃんの存在って人生の中には、あんまり根付いていなくて、初恋っていう呪いありきの仲でもあったのかもしれないね。
そんな恵まれないような愛子ちゃんだけど、なんだかんだ彼女の願いは大体叶っている。頭のてっぺんからつま先までわかりあうことだとか、その瞬間に死んでも良いってことだとか。
君に会えてよかった、ありがとう。
プンプンは、愛子ちゃんが幼いころに短冊に託した願いに反して彼女のことを忘れていくんだけど、全部を忘れることはないと思うんだ。それに、逃避行をしているときに、プンプンの見た目がプンプンに戻ったあの瞬間以上の時間を彼が味わうこともないのだと思う。それを知っていたからこそ、その先の人生に自意識という名の理想や期待は無駄だと悟って、彼は”自分”を殺したのかもしれない。
それでも、いや、だからこそプンプンの中で、あの時間が永遠であるのだろうと信じている。(信じているというのは、愛子ちゃんへの同情心があるから。笑)もしそうなら、愛子ちゃんの短冊の願いも部分的に叶っているんだろう。
プンプンはNaverまとめとか見ているときみたいなノリで、無心で読んでいたんだけど、11巻くらいから惹きつけられるシーンが増えてきて。この砂浜で抱き合うシーンとかベタだけどすっごく好きで。プンプンの形だからこそ良いんだけど、一方で人の姿で抱き合っている姿も見てみたかったなって(笑)そういうのは、想像で補うものだよね、うん。ここで人型だったら多分批判の嵐だっただろう。笑
僕の世界は、君のものだったんだ
ここらへんはプンプンの人生の最上級、沸点みたいなもんっすよ。きっと。心の底からもう死んでもいいって思ったんだろうな。
そして最後のシーン。涙が切なくて。この涙はなんなんだろうな。どこか身勝手な切なさでもあって、少しの無念のようなものも感じられて、ふるるってなるな。
高校時代にリアルタイムで、読んで中断していて、この度1巻からまとめ読みしてみたわけだけど、読後感はなんだか少し暗い気持ちに(笑)この作品から、人生に活かすようなメッセージを受け取ったりとかはしなかったなぁ。
でも、そういうのを抜きにして読むことを楽しめる作品であった。特に幼少期と、愛子ちゃんと再会してからが好きだったなあ。つまり愛子ちゃんとプンプンのストーリーの部分ってことになるのか(笑)連載時から、終わりとはじめの辺りは大体決まっていた作品らしくて。構想時からあった部分っていうのは、やっぱり気合も入るだろうし、温度感が違うなって。
悪く言っちゃうと中間の部分は作品の補強材止まりで、モブキャラは結局配置されたモブキャラって受け取り方もできると思う。登場人物みんなを愛せて、それぞれのこの先を思いやれて、といった類のものではない。雄一おじさんとか、蟹江さんとか好きだけどね(笑)
浅野いにおさんのユーモアセンスというか、ギャグセンスもぐでーっと楽しめる感じで。どのキャラも同じユーモアセンスで、笑いのセンスの没個性感があるけれど(作品をまたいでも感じる)好きだから良いんだ。
おまけ。「銀杏BOYZ - 光」
本やマンガを読んでいると、ぴったりのBGMをついつい探したくなっちゃうんだけど、いろいろ探した結果「銀杏BOYZ」の「光」だと思った!ぴったりだ。ちなみに銀杏の峯田は、プンプンの帯にコメントを寄せたこともあるのです。
同じく銀杏の「東京終曲」も部分的に合う感じ。東京終曲はPVが約50分のすっごくアングラな映画となっていて、興味の在る方はどうぞ(笑)カオスです。ちなみに峯田が監督。